園長月のお便り
  • コスモス2

    転ばぬ先の杖         園長 玉井 史恵
     私の娘は、このマリア幼稚園に通っていました。
    (その頃私は仕事を一度退職し、主婦をしていました) 
    年少の運動会の時、それは それは 嬉しそうにリズムを
    踊っていた娘でしたが、玉入れときたら、
    一人玉入れのかごに背を向け、しゃがんだまま後ろに玉を
    投げていました(笑)一人っ子ということもあってか、
    とにかくマイペース。慌てるとか、人と競うとか
    そういう気持ちは全くというほど持ち合わせていなかった娘です。 
    親としてはこんな娘で大丈夫かと心配で
    「早く早く」を繰り返し、間に合わない時は手を出していましたが、
    本人は全く困った様子もなく毎日楽しそうに幼稚園時代を過ごしました。
    そんな娘が小学校にあがってじきに
    「今日ね~トイレから戻ってきたら、教室に誰もいなくて、
    泣いてたら知らない先生が畑に連れていってくれたの…」
    という出来事が起こりました。のんびりしていると
    置いていかれるという経験をした娘。
    またある日先生から「バスに乗り遅れたので迎えにきてください」
    と電話が…(冬だけ低学年はバスがありました)
    乗り遅れた理由は教室で手袋をさがしていたのだと…。
    また別の日、ランドセルのふたをきちんと閉じなかった娘、
    下校中、友達とふざけながら歩いていて、
    下を向いた途端ランドセルの中身が川の中へ…。
    友だちに手伝ってもらいながら、
    びしょ濡れの教科書を拾って帰ってきました。
    こんな小さな失敗や困った、を繰り返しながら
    娘は少しずつ変わっていきました。
    そして親の私も娘の姿を見ながら、
    いくら親が何か言っても、本人が本当に困り、
    こうしようと思わない限り変わることはないと実感しました。
    (それでも低学年の困った、はかわいいもの。
    この後最大の困ったに出会いますが、その話はまたそのうちに…。)
    親としてはついつい、子どもが困らないように
    先回りして手を出したり、声をかけたりしたくなります。
    その方が親は楽ですし、心配もいらないからです。
    でもそれはその場限りでしかないことを実感した私は、
    命にかかわらないことに対しては、すぐに口出しをしない、
    じれったくても待つということを意識してきました。
    とは言うものの、時間があって子どもの姿が目に入れば
    ついつい口を出したくなりますし、仕事を始めて時間がなくなると、
    今度は待っていられず口やかましくなってしまう、
    なかなか難しいものでしたが…。
     さて、幼稚園の生活の中でも、子どもたちにとって
    小さな困った は起こります。
    お箸を忘れた子どもが、職員室に「お箸貸してください」
    と借りに来ます。1回目は泣きながら借りにきた子どもも、
    3回目くらいになると堂々と(笑)借りにきます。
    忘れても借りれば大丈夫という経験があるからです。
    これは箸だけの話で終わらず、忘れ物をしたときは
    何か違う方法で対処すればいい。という考え方に
    つながっていくはずです。
    忘れ物をしたことのない子どもより、
    したことのある子どもの方が、実はよい経験を
    しているように思います。
    こう考えると、たまには忘れ物の経験もいいものです。
    忘れ物に限らず、小さな 『困った』にぶつかり、
    困ったことを解決する度に 『こういう時はこうすればいいんだ』
    『困ったことがあっても大丈夫』と子どもたちは学んでいきます。
    その積み重ねが、この先『大きな困った』に出会った時、
    必ず乗り越える力になるはずです。
    クラス替えなど環境の変化にも慣れて落ち着いてきた2学期、
    大人の私たちが先回りして、手や口を出すことで、
    子どもの学ぶチャンス、成長するチャンスを奪ってしまわないよう、
    意識して過ごしてみませんか。 
    『転ばぬ先の杖』 ということわざがありますが、
    ~ 転ばぬ先の杖 出さないことも 親の愛かな ~ 
    と思います。

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